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江戸前天ぷらと天一

Edomae Tempura & TEN-ICHI 江戸間天ぷらと
天一にまつわる五つの御話

屋台の立ち食いから始まり、
店舗を構える「お座敷天ぷら」へと進化し、
今では高級和食料理としての
地位を確立している江戸前天ぷら。

その歴史を知ることは、
江戸の発展と共に歩んできた、
粋でいなせな食文化の軌跡を
辿ることでもあります。
約百年にわたり銀座の地で
天ぷらを揚げ続けてきた天一も、
その文化を築き上げた一員です。

ここでは、江戸前天ぷらを
より深く味わっていただくため、
五つの御話をご紹介いたします。

「江戸前」とは

「江戸前」は元々、その名の通り、江戸時代に存在していた「江戸前島」や「佃島」周辺の漁場を指す言葉。その後、享保年間の頃から、江戸前で獲れた新鮮な魚介類を意味するようになりました。
当時親しまれていた天ぷらは、せっかちな江戸っ子たちが仕事の合間にサッとつまむ、いわば「江戸ならではのファストフード」。串に刺した魚介を立ち食いするスタイルで、城下町の至る所でその姿を見ることができたそうです。
時代が進むにつれて屋台から店舗型へと進化し、天ぷら文化も全国へと波及。諸説ありますが、関西風との区別に伴い、「江戸前天ぷら」が生まれたとされています。

揚げ油の秘密

江戸前天ぷらは、基本的に胡麻油を用いて調理されます。魚介の生臭さを消し、食欲をそそる豊かな香りを纏わせるためには、胡麻油が最適とされているのです。しかし、人々の味覚や嗜好は、時代と共に変化するもの。「胡麻油だけでは、重たく感じられるのではないか?」そう考えた天一の創業者・矢吹勇雄は、胡麻油とコーン油を黄金比でブレンドする、独自の工夫を凝らしました。
豊かな香りはそのままに、衣の食感はより軽やかに。伝統を守りつつ、お客様に寄り添いながら進化し続ける。油の配合にも、私たちの“進取の精神”が息づいています。

天つゆと大根おろし

江戸前天ぷらには、天つゆと大根おろしが欠かせません。天ぷらが屋台で楽しまれていた頃から、江戸っ子たちは串に刺した天ぷらを天つゆにくぐらせ、その上に大根おろしを乗せて食べていたのだそう。ちなみに、薄口醤油を用い、より素材の味を引き立てようとする関西風天ぷらと比べ、江戸前天ぷらの天つゆは濃口醤油ベース。みりんを加えた「かえし」を出汁で割ったものを使っています。
では、なぜ大根おろしなのか? その理由は、揚げものとの相性が。大根には消化酵素が含まれており、食物の消化を助け、胃腸を整えてくれる働きを持ちます。また、天つゆの塩味をやわらげ、風味を格段に増してくれる作用も。
香ばしい衣と、天つゆと、大根おろし。そこには江戸の先人たちが見つけた、理にかなった美味しさが詰まっているのです。

旬の素材

江戸前天ぷらの“華”といえば、やはり海の幸でしょう。天一でも、まず初めに召し上がっていただくのは才巻海老。そして、淡く上質な白身の鱚に、肉厚で脂の乗った穴子。どれも江戸前天ぷらを象徴する魚介たちです。
一方で、山の幸も負けず劣らず、天ぷらの席に鮮やかな季節感をもたらしてくれます。春は蕗のとう、夏はとうもろこし、秋は椎茸、冬は蓮根と、四季の移ろいに応じて旬のたねをお届けしています。
雄大な海を泳ぐ鮮魚と、豊かな大地が育む野菜。このふたつが同居することで、天ぷらのコース全体に、美しい日本の四季が描き出されるのです。

文化の継承

天一は飲食の場を超えて、芸術や文化への造詣を深める「サロン」の役割も担ってまいりました。
かつては白樺派の文豪や名高い陶芸家などの文化人が集い、それぞれが交流を重ね、話に花を咲かせる光景が見られました。
そして、そのご縁は今もなお続いています。
器には、天一ともゆかりの深い陶芸家・川喜田半泥子氏が開いた仙鶴窯の作品を採用。店内には洋画家・小杉放庵氏の作品を飾り、美の心を感じられる空間を設計しています。
また、天一を愛した芸術家たちの作品を収めた「天一美術館」も設立し、文化を現代へと受け継いでいます。 一皿の天ぷらだけでなく、器や空間、そこで生まれる会話まで含めて、お客様に豊かな文化体験をお届けすること。「料理は総合芸術である」という考えもまた、天一が大切にしてきた“江戸前の流儀”です。